ラリー東北3デイズ2024
ラリー東北も早いもので7年目である。2年サイクルで開催地を移動してきた。そのサイクルから外れ、岩手は今年で3年目になる。なかなか岩手を卒業できないのにはいくつかの訳がある。そのひとつが今回のラリーのテーマである「三陸の復興を見て欲しい」だ。ラリー東北は私の住んでいる福島からスタートした。初回のスタート地に選んだのは東京電力福島第一原子力発電所に程近い広野町だった。福島のこのエリアは原発事故による放射能汚染の影響で復興が遅れていた。しかし、「福島の復興なくして日本の復興なし」といわれ国家プロジェクトで予算がつき、ものすごい勢いで復興が進められている。一方、津波により壊滅的な被害を受けた三陸はどうか。今年のラリーのスタート&ゴール地点は大船渡市だ。三陸エリアは震災の津波で甚大な被害を被った。大船渡の津波の高さは16.7メートルにも達したという。ビルの4階〜5階相当の高さだ。家屋は流され、多くの人が亡くなった。震災から13年が経過した。ようやく復興してきた感が出てきた。ほんの4~5年前までは復興が遅れているという印象が強かった。本来人が住んでいるところに何もなかった。再び津波来た時に影響があるエリアは居住が制限されるからだ。しかし住民は元の場所に住みたいと思う。色々な思いが錯綜して、復興の道筋が描けなかったというのが本音のようだ。防潮堤もしかり。地元の人は高い防潮堤があるから安心と思う人は少ないという。「海が見えないのは気持ち悪い」というのが本音で、理屈ではなく感覚的に相いれない部分があるのかもしれない。中には住民が防潮堤建設に反対して防潮堤のない浜もある。福島もそうだが、海岸や砂浜の景色はずいぶん変わってしまった。国の復興政策は住宅再建が最優先だ。産業はその次で、風景などは認識もされていない。しかし、復興の進捗と被災者の復興感は比例しているのではないか。それを考えると、その地域を象徴する風景の復興ということを、もう少し重視してもいいのではないかと感じる。そんな大船渡や陸前高田もここ数年で街らしくなってきた。今年のラリーでは、そんな街並みを走ってもらったり、震災遺構や海沿いに作られた異様なほどに大きな防潮堤などをいくつかルートに盛り込んでいる。それらに触れる事で防災の事や三陸エリアの復興を感じてほしいと思っている。そして、防災の事や危機管理の事を考えるだけではなく、地震や大雨などの自然災害を通じていかに人間なんて小さな存在なのかや命の大切さについて考えてみてほしい。「銀河鉄道の夜」でジョバンニが云った「ほんたうのさいはひは一体なんだらう」(本当の幸いはいったいなんだろう)と根源的な問いについて考えてみてほしいと思っている。物語の中ではカンパネルラが「僕はわからない」とぼんやり云った。私たちはどんな問にもこたえがあると考え、性急にそのこたえを求めてしまいがちである。しかし、宮沢賢治はこたえそのものよりも、問い続けていくことが大切であると訴えたかったのではないか。年に一度東北の地をバイクで走る際には、そんな風に自分自身と対峙する時間をほんの少しでいいのでもってほしいと思っている。
なかなか岩手を卒業できない理由のふたつめは、岩手の美しい風景と林道郡である。この2年間は中部から北部を中心にラリーを展開してきた。八幡平や岩泉などは林道の宝庫でオフロードファンにとってはパラダイスのようなエリアである。今年は南部のエリアをスタート&ゴールにして、南部の林道郡を堪能いただこうと思っていたのだが、ほんの一部しかルートに組み込めなかった。それほどこのエリアもダート成分が充実しているのだ。
一方でルート制作は困難を極めた。8月、9月の大雨の影響で通行止めが続いているエリアがある。当初組み込もうと予定していた場所を何か所か迂回をせざるを得ない状況で、特にDay3は予定を大幅に変更しなければならなかった。昨年も大雨の影響があった。今年は秋田などは災害級の被害があったと聞く。ラリーの主催は毎年こんな困難との闘いがメインになってきそうで恐々としている。ラリーは自然との共生であり、このような困難を乗り越えていくことでここでしか体験できない魅力を味わえるのかもしれない。
さあ、今年のルートである。何しろダートが長い。全行程990Kmのうち400Km以上がダートなのだ。毎年なのだが、ここを走ってほしい、あそこも入れたい・・とやっているとルートが段々長くなり、ダート成分が増えてしまう。今年は後先考えずにダートを盛り込んだ異常なルートになっているかもしれない。わたし自身が試走の時にヘルメットの中で叫んでしまうくらいファンキーな体験であった。これはぜひエントラントと共有しなければと思った次第である。さて、エントラントの皆さんはこのダート満載のルートをどう感じてくれるのだろうか。ゴール後の充実した笑顔を期待したい。
Leave a Reply