SSER PRESS Vol.138

 

SSER PRESS Vol.138

 

遥かなる北の空へ、銀河鉄道の旅路

いよいよ、SSERツールドニッポンシリーズ2025最終戦のラリー東北だ。この旅も9回目を迎え、東北の夜空を照らす銀河鉄道の線路はこれまでよりもさらに遠く、深く伸びていく。今年は4日間という、少し長くなった旅路。この1日の延長は、ルートディレクターにとっては、ルート制作の道のりが2倍にもなったような困難さであった。しかしそれは、気持ちの良い温泉のビバーク地や変化に富んだスペシャルステージの増加、そして素晴らしい自然とのふれあいや息をのむ絶景との出会いという形で、コンペティションとツーリズムの融合を深化させた。この4日間の旅は、ジョバンニたちがつまんだ銀河の砂のようにキラキラと輝いているはずだ。

 

新たな星座、秋田・青森への探求
これまでの旅路では、福島から宮城、山形、岩手へと駒を進めてきた。残るは、夜空の最も奥深くに位置する秋田と青森。この二つの星座は、容易には近づけない手強い存在である。この2県の山々は、5月末でも雪が残り、冬季閉鎖が解除されない場所が多いのだ。また、国有林が広大に広がり、頑丈なゲートたちが私たちのロケハン(試走)を阻んでいる。これは、銀河の果てへと進むために、新たな道を探さなければならないジョバンニの試練にも似ている。しかし、秋田には天然杉が群生する森という、息をのむような絶景が待っている。その雄大さは、高さ50メートル以上、直径164センチにも及ぶ日本一の天然杉の巨木群が象徴するように、銀河のどこにも見当たらない生命の光を放っている。今回のルートは、まさにその天然杉の森を縫うように進むのだ。エントラントは、この生命の営みの壮大さに、自身の旅の意味を重ね合わせることだろう。日本三大美林のもうひとつである青森ヒバの森への探求は来年へと繰り越しておく。

 

コンペティションという名の試練と、ツーリズムという名の安らぎ
私たちの旅は、コンペティションという名の試練と、ツーリズムという名の安らぎの融合を目指している。試練の象徴は、今年も健在の総延長約100キロのSS群だ。昨年は27キロ超のSSや4割を超えるダート比率など、高いレベルでの試練を設定した。しかし、夜間に静かな山村をオートバイが通過することにについて振り返り、今年は全体的な距離を短めに設定している。一方、安らぎをもたらすツーリズム。今年もルートにはいくつものビューポイントや観光スポットが組み込まれている。もし、エントラント自身のタイムマネジメントを極めることができたなら、銀河の途中にあるカフェのように、心の休憩所を見つけることができるかもしれない。その一瞬の立ち寄りが、コンペティションの星々を駆け抜けるエントラントの心に、新たな活力を灯すことであろう。

 

壁を越える、レイドクラスという希望の星
「SSERの競技ラリーは敷居が高すぎる」そう言われてきた。その壁を乗り越えるため、私たちはレイドクラスという新たなステップを設けた。これは、距離を短めに、SSも本数を減らすことで、初めて競技ラリーに参加する方にも、一歩踏み出しやすい内容としている。気軽にとは言えないかもしれないが、このレイドクラスは、銀河鉄道に乗ることをためらう人々の背中を押す、優しい希望の星となることを願っている。今回のルートでは、距離は80%程度となっているが、ダートを中心に距離を減らしている。また、ルートのハイライトとなる部分は組み込まれているので、ラリー初心者にとっても十分に楽しめるものとなっているはずだ。

 

旅路を阻むものと、試練の先の光
今年の秋田でのルート開拓は、極めて困難を極めた。数年来の大雨がもたらした災害の影響は大きく、残念ながらいくつかのとても美しい銀河や星座を組み込む事が出来なかった。そして、今年に入ってからの記録的な豪雨が直前までルート変更を余儀なくさせた。ルートに組み込まれたダートにもその傷跡が多く残っている。これは、自然という抗えない力が、私たちに与える究極の試練だ。加えて、今年は熊の出没が相次ぎ、試走中にも何度も遭遇している。エントラントは、旅路の中でこの自然の脅威と不確実性を常に意識する必要がある。賢治の物語のように、試練の先に待つ光、そして自分自身の「本当の幸い」を目指して、遥かなる北の銀河を駆け抜けてほしい。
佐藤 直美

 

ROUTE INFORMATION

DAY-1 10/10(金)
東成瀬⇒仙北 TOTAL 241.60km DIRT 39.09km(16.18%)

ラリーはスタートしてスキー場の裏手を下っていく。最初の肩慣らしの気持ちの良いダートを走る。細かい分岐が続き、ナビゲーションのキャリブレーションにも良いはずだ。今回からルートブックがFIM標準の書式となり風景とコマ図のイメージ合わせが必要だからだ。山を下りりんご畑を抜けて、ルートは西へと向かう。国道から山へ入り、また国道で出てくる。途中、高速に乗る。高速はミスコースすると大変なので少し緊張するかもしれない。最初のSSは16キロ弱の気持ちいいダートだ。木の切り出し作業が盛んに行われている中でのSSの開催となっている。ところどころ鉄板置いてあったり、重機が脇に置かれているので注意が必要だ。このエリアの試走では熊や鹿に遭遇しているので、SS中に出会わないことを祈る。天然杉の森から出て、みちのくの小京都と呼ばれる美しい街並みを通り抜け、ビバークへと向かう。

 

DAY-2
10/11(土) 仙北⇒仙北 TOTAL 390.18km DIRT 72.27km (18.52%)
ビバークをスタートして、すぐにSSへと向かう。SSの出口では小さな集落を通過するの で、くれぐれもジェントルな振る舞いを。この日のルートはメリハリが効いている。高速を 使って市街地をワープする、とても気持ちの良い眺望を楽しむ、数キロ続く直線道路を 走るなど前半はツーリズム中心だ。中盤にこのラリーのクライマックスである22キロの SSを迎える。前半のダートは超フラットでハイスピードだ。後半はいつも水が流れてい て走りにくい路面が延々と続く。1箇所崩落している場所を通過するので、注意が必要 だ。ゴール地点から少し入ると津軽富士を望む展望所があるのでクールダウンにぜひ。 SS後はさらに続く下りのダートを楽しんだ後、ひたすら南下していく。途中国道から離 れ、マタギ発祥地と言われる集落を通過する。その先には細く、長く、真っ暗なトンネル がある。一体なんのためにこのトンネルが作られたのか?そんな思いを馳せながら走っ て欲しい。ルート終盤には山から吹き出るパワーをその水にため込んでいる神秘的なカ ルデラ湖畔を走る。湖畔に佇む辰子像を眺めながら、辰子が満願の夜に越えたと言わ れる院内岳の深い森の道を下ってビバークへと向かう。

 

DAY-3
10/12(日) 仙北⇒金ケ崎 TOTAL 317.73km DIRT 80.31km (25.28%)
ラリーは山深く見事な杉の群生する峠を越えて岩手県へと向かう。この日は素晴らしい ダートエクスペリエンスデイだ。最初のダートは緩やかな川沿いを登っていくご褒美の ような道だ。折り重なる木々の間から見える空からは、森の妖精が下りてきそうだ。峠を 越えてこの日のSSに入る。1本目のSSは湖畔をぐるっとまわるツイスティなフラットダー トだ。無駄なく加減速を繰り返し、気持ちよくコーナーを楽しんでほしい。連続する2本目 のSSは登り基調だ。アクセル全開で駆け抜けてほしい。ダム湖を眺めながら盆地へと 下りていく。ルートは再度山地へと向かう。阿弥陀如来出現の地と言われる湖を通り、 ピークを越えて、紅葉が見事な峠へと向かう。峠では、看板の前にバイクを停めて、ぜひ 絶景を楽しんでほしい。ルートは滑りやすいフラットな路面を下り午前中とは反対側の 盆地へ出て、すぐに次の峠へと向かう。ここは、正岡子規が東北を旅した際に通り秋田 県から岩手県へ県境を越えたと伝わる峠だ。後半は草が多く少し苦労するかもしれな いが、子規の時代に比べたらなんという事はないだろう。紅葉のスポットとして賑わう 湖を抜けて、ビバークへと向かう。

 

DAY-4
10/13(月・祝) 金ケ崎⇒東成瀬 TOTAL 248.10km DIRT 65.90km (26.56%)
湯量豊富な温泉を堪能したビバークを離れ、山頂では紅葉が始まっているはずの焼石 岳に少しだけ迫っていく。一旦北上盆地へ下り、今度は北上高地へと入りこんでいく。 10キロほどのダートでウオーミングアップを終えたら、最終の連続する2本のSSへと向 かう。2本ともうっそうとした木々に囲まれた比較的路面が安定したダートなので、ライ ディングに集中することができるだろう。その後は絶景の2大渓谷を通る。紅葉には少し 早いかもしれないが、ダイナミックな自然の造形にほんの少し触れてみてほしい。何本 かのダートを楽しんだ後、紅葉が始まっているダム湖を抜ける国道で県境をこえて秋田 県に戻り、ラリーはフィニッシュを迎える。

 

TIME SCHEDULE

 

TIMING CHART

 

ROAD BOOK LEXICON