次作『楼蘭の黙示録–彷徨える湖と楼蘭は、いかに地上から消滅したのか』発売。

次作『楼蘭の黙示録–彷徨える湖と楼蘭は、いかに地上から消滅したのか』発売。
前書き部分より


二〇世紀のただなかに少年時代を過ごしたわたしたちを空想の世界へ駆り立て、冒険への覚悟と準備を迫った一冊の本があった。
それはスウェーデンの地理学者スヴェン・ヘディンの著した『彷徨える湖』である。二〇世紀初頭に地球上最後の地理的空白地帯とされ、その位置を特定することの出来なかったタクラマカン砂漠をまるで蓮の葉の上を転がる水滴の如く彷徨っていると思われた湖ロプノール。
北西の湖岸には、紀元前二〇世紀もの過去から絢爛たる文化を誇った楼(ろう)蘭(らん)王国が存在した。幾度(いくたび)の興亡を繰返しながらシルクロード交易の要衝として栄え、そして忽然と砂の中に姿を消した。まるで歴史の闇に葬り去られたかのように。
一九三四年、ヘディンは丸木舟で塔里(たり)木(む)河(がわ)を下り満々と水を湛えたロプノールに到達し、議論に終止符を打った。しかしヘディンの唱えた流砂の堆積説もふくめ、なぜ湖が移動するのか、楼蘭はいかに栄え、そして消滅したのか、その謎は現代でも説は定かではない。
本書は、あくまでもわたしの空想の産物で仮説に過ぎない。少年時代から紡いできた、この地への冒険行の超仮説的結論がこの
『楼蘭の黙示録‐彷徨える湖と楼蘭は、いかに地上から消滅したのか』
という物語である。
二十一世紀、わたしは複数回にわたり複雑な手続きを経て、水を失ったロプノールの地に立った。そこには驚きの光景が広がっていた。
一辺が40キロを超える巨大な塩水プールがあり、原発かと見紛うほどの冷却塔が立っていた。警護する兵士はサブマシンガンをこちらに向け威嚇した。
「これは採塩施設だ。帰れ」
と言う。リチウムの精製基地であることは疑いようがないが、さらにある消息筋は、この地で未だに秘密裏の地下核実験が続いているとも伝える。
本書を通じ、ともに消滅してしまったシルクロード・楼蘭の幻の天山南路を、西に向かい、襲いかかる砂嵐と炎熱に呻吟しながら、時空を遡るように楼蘭を目指したい。そして水を失くすという、やがて人類も直面する最大の難局を想像してみたい。

山田 徹