コラム

 

「夢の先にある物語へ」

by Tetsu YAMADA

ボクが『彼方へ』という本を上梓してから2年が経った。BIGTANKオンラインマガジンで連載されるようになってAmazonでも、ポツリポツリと売れるようになった。あの本はボクが30歳の前半から10年間程度のことが書かれている。その前にも長い時間があって、そのあとにも長い時間がある。「九州へ」ボクが20代の頃からキーワードのように使っていた言葉。毎週のように深浦や武者泊に釣りに行くか、九州に走りに行くかの週末を過ごしていたころもあるなあ。よくも体力と資金が続いたものだ。で、深夜のフェリーに乗って、まだ夜明け前の臼杵か別府に降り立った。一人の時も多かったが友人らともよく行った。このころからフエリーに乗るというアプローチが、実に気に入っていた。夜明けとともに下船するようにいつも調整していた。1日走り、椎葉まで行って帰りのフェリーに乗り遅れたりした。

ボクはパリダカールに初めて出た時、セッテという港からアルジェにわたる船で地中海を渡った。確か船名は「ティパサ」と言った。ティパサとはアルジェリアの海岸に在る古代遺跡のある都市の名前だ。まあそれはいい。そのティパサという船は、日本の関西汽船からただ同然で買い受けたものだった。調べなくともすぐに、それが「るり丸」だということがわかった。2等船室の木製の壁に、小学校6年生の時の修学旅行に向かうボクタチのいたずらなナイフの傷があった。「S42東雲小・・・」あとは良く読めなかったけど。その晩は、バイクを積んで九州に向かう夢を見た。その夢の先にボクの「彼方へ」があり、そして今、日本中を駆け巡るツールドニッポンシリーズがあった。今年も、九州から走りはじめよう。

 

 

SSER PRESS No.117

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