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No.022
2000/08/03

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■梼原は暑かった。ぼくも梼原2デイズに参加させていただいていたんですが、帰ってきたらサッポロも暑いんですよ。連日35℃前後を記録していて、これっていうのは、生まれて初めての経験です。冬になったらなったで、連日マイナス20℃なんていうこともあるんですから、人間ってのは丈夫ですねぇ。なんてこんな世間話をするつもりではありません。

■昨年、梼原2デイズに参加した三橋淳選手。"薄氷を踏む"勝利ではありましたが、とにかく二連覇を達成。昨年はね『ラリーの仕組みもいまひとつピンと来てなかったし、そのための完全な準備もできていなかった。勝ち方も当然わからなかった。だからまぐれの優勝だったと思ってますよ。ナイトステージが少なかったのも幸運だったしね』でも、今年は『勝つためになにが必要かすべてわかっていたから、そのための準備をしてきました。』ということなんですが、競技者としてのレベルが高くなればなるほど、準備というものが勝利、そして納得の行く競技をするための重要さを増してきます。走り出してしまえば、フィジカルティフィットネスにしろ、メンタルなものにしろ自分の持っている範囲でしか活動させることができない。器というのはスタート前に決まっているわけです。で、その能力を100%発揮させるための準備をするわけです。ライディングする技術というのは、確かに三橋選手の場合には、今年梼原に集まったすべてのライダーのなかでも頂点にあったでしょう。が、しかしほぼ同じ程度に優れたライディング技術を持つライダーが他にも何名もいたばすです。それはトップ3を競いあった池田秀仁選手、尾崎哲生選手だけではなかっただろう、とぼくは思っています。

■で、それぞれの選手が持つ優れたライディング技術を成績に結びつけるもの、というのがスタート前に行われる準備ということになるのでしょう。ライディング技術が均衡していれば、あとはそれをいかに発揮させるか、そのための準備というとても地味な作業を、いかにクレバーにこなすかという能力が試されてくるのではないでしょうか。梼原2デイズでは、実際に、ライディング技術とは直接関係ない理由で、上手に競技をこなすことができずに成績を落とす選手が非常に多いですよね。ぼくもそのあたりの常連さんになりつつあるんですが、そうしたことが顕著に出てくる競技システムこそ、梼原2デイズの面白いところなんでしょう。見た目には激しくて、野獣のような魂ももちろん求められていますが、俯瞰すると実に人間的で知的な活動が求められる競技であることがわかってきます。

■しかし、どんな人でもどんなに完璧を期していたつもりでも、準備には必ず落とし穴が存在するというのも確かなことなのでしょう。今年の三橋選手にしろ、SS中でライトのトラブルがありました。機械的なトラブルというのは、理詰めで追っていけばかならず防ぐことのできるものですから、厳しく追いつめていけば準備の手落ちと片づけてしまうことも可能です。が、最高峰のプロフェッショナルのメカニックの手になるジェット戦闘機がトラブルフリーではないのと同様に、マシンというのは人間の智慧(その産物であるにもかかわらず)を越えたダダをこねる"生き物"でもあります。それをすら乗り越えて勝利をもたらすもの。といえば、強運とそれを強くひきつける力ということになるのかもしれません。

■SS中でライトが消えるという、最悪のトラブルに大抵のライダーは絶望し、次の瞬間に闘志そのものが闇に溶けて流れ出ていくでしょう。が、今回の三橋選手の場合は、それでも『SSのフィニッシュにたどりつく』という本能的な強い意志を失わなかったようです。ヘルメットにとりつけた小さなランプを頼りに、許す限りの速度で走り続ける。ライダーなら誰もが隠し持っている、野性の魂がそうさせたに違いありません。しかし無理なものは無理。すぐに転倒。その転倒こそ、彼が幸運をひきよせた瞬間だった。どうしたことかライトは光を取り戻し、ファンファーレが鳴り響くかのように、彼の650ccシングルもその鼓動を早めたということ…。運・不運といいますが、幸運を引き寄せる力というのは、別に星まわりと関係があるわけではないんですね。幸運というのは、不運と同じ数だけそこらへんに転がっているわけです。ライトが切れるという不運を拾ってしまうこともあれば、転倒した途端にライトが光を取り戻すという幸運もある。でも、もし彼が『それでも走る』という勝利へと向いた一定の強い意志を失っていたら『幸運な転倒』はなかったかもしれない。そう考えると、幸運なんてものはハナっから存在しない。自分で創り出すものだ、という言い方もできるのかもしれません。

■ぼくも同じ競技を走っていたのですが、そのはるか前方の時間軸では、こんなにも面白いレースが展開していたんですね。久しぶりにハイスピードの続くコースに、生き生きとSSを消化していく尾崎哲生XR600。雪辱を期す池田秀仁CRM250AR。そして、強敵の待ち受ける梼原の暗闇に二連覇をかける三橋淳XR650R。表彰台にあがった3人の笑顔にくったくのないことが、まさに今回のラリーが選手に持てる能力すべてを発揮することを求めたことの証明で、それを出し切ったモノたちだからこそ、と勝手に思っていました。

■北の島の札幌も、本当に夏らしく、暑く、青空が広がっていて、まだ梼原の夏がそのまま続いているかのようです。

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