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No.46
2002/01/11

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■初めてモトクロス用のバイクを自分のものにした頃は、まだ運転免許を持っていなくて、年上の従兄弟に毎週末、郊外の草モトクロスコースに連れて行ってもらっては、朝から晩までクタクタになるまで走っていました。1980年代のはじめから中ごろにかけて、ぼくにとって少年のその頃というのは、パリダカールラリーが時代の夢を代表する存在だったように思います。おそらくぼくと年代を前後にする人、中でもその頃すでにオフロードバイクというものに親しんでいたという人ならきっとわかってくれると思いますが、ぼくはそのオンボロ中古のモトクロッサーでがむしゃらに突っ走る(それはまさに他に表現さようもなくただ突っ走っていました)ことで、あの世界に近づいて、その夢のようなドラマの渦中に入れるような錯覚をしていたように思います。輝くような砂丘の中を泳ぐように走るBMWやHONDAの色鮮やかなファクトリーマシンたち。砂塵で真っ黒になった顔に、白い歯を見せて笑うオリオールやライエ、ヌブーといったファクトリーライダーたち。大平原の中をクラウチングフォームで疾走するマシンとライダー、ダストがずっと後方まで長く伸びて、ヘリがそれを追いかけながら撮影していました。でっかいタンクをつけたXL600のライダーが、ヘリに大きく手をふっている映像を憶えていますが、そのライダーが誰だったのかはわかりません。

■いつかそこに自分もいくのだろうかと思いながら、「冒険の扉」がどこにあるのか知らされないうちに、いつしか身近なところで自己実現していく方法を知っていきます。今でもぼくはバイクやそれを使った競技に親しみすぎるほどに親しむ生活をしていますが、ラリー、そのなかでもパリダカは特に自分の世界とは違うもの、として、むしろ近寄らないようにしていることに時折気がつきます。でも、ぼくと同じような少年を過ごし、かつその時期にオフロードバイクというものを知ってしまったなら、きっとわかってくれると思うのですが、あの映像というのは、どうも原風景といって良いほどに心の中に住み着いてしまっているようなのです。燃料をたくさん積むためにラクダみたいにでっかくなってしまったマシンに乗って、オアシスを目指して砂丘を大平原をどこまでも疾走するライダー。それは、やっぱり自分じゃなきゃダメなんじゃないか。あらゆる苦難がふりかかり、疲労困憊し、マシンは傷だらけとなり、何度ももうダメなんじゃないかと思い、しかしその度に自分を奮い立たせて、ただゴールするという目的のためだけに何度でも立ち上がり、走り続けるのは、やっぱり自分じゃないとダメなんじゃないかだろうか。やがて傷だらけとなったラリーマシンとともに、あの海岸を疾走するのは、やっぱり自分なんじゃないだろうか…。

■幸い(?)、昨今はテレビの映像でパリダカを観ることはほとんどないし、まして二輪の映像などは皆無といっていいほどなので、その原風景を秘めた魂も、ゆりおこされることは少ないのですが、やはり今年のように三橋淳、堀田修はじめ多くの日本人ライダーが参加し、活躍する様子を知るにつけ、ウラヤマシイというよりも、乗るべき電車に一人だけ乗り遅れたような、少し悲しい焦りのような気持ちになったりします。「いつか…」という気持ちがあるわけではないのですが、なぜかそういう気持ちになるというのは不思議なことです。なぜパリダカへ、なぜジブラルタルを渡って、そしてダカールの海岸へ行かなければならないのか。そんなことは全然わからないのに、そこを約束された場所のように思い込み「ダカール、ダカール」と念じるのはなぜか。なぜパリダカなのか、まもなく還ってくる男どもに、それを聞いてみたいと思うこの頃です。そしてぼくも雪がとけて春になったら、もう一度バイクに乗って突っ走ってみたいと思います。レースで良い成績を残すためや、運動不足の解消や、仕事でも気晴らしのためでもなく、ただ夢中にあの原風景に近づいていくために突っ走ってみたいですね。

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